6月23日(木)
日本⇒ヘルシンキ
酷暑の日本からフィンランド航空の直行便で北極点クルーズの集合地ヘルシンキに同日午後着きました。今回のお客様の中にも以前南極クルーズでご一緒した方々のお顔を見つけたのはとてもうれしいことでした。北極点クルーズの集合地であるクラウンプラザホテルには世界各国からの参加者が次々とチェックインされています。夕方まで時差調整のために熱波(といっても27℃)の公園周辺を散策した後、北欧産サーモンの夕食を済ませて早めに休みました。
6月24日(金)
ヘルシンキ⇒ムルマンスク(17℃)⇒市内観光⇒50イヤーズ・オブ・ヴィクトリー号乗船
フィンランド航空の早朝チャーター便で約1時間半、かつてソ連時代には外国人立ち入り禁止の戦略的都市であった北極圏内の不凍港ムルマンスクへ。出入国及び税関検査の後バスで町の中心までシラカバ林の間を約40分のドライブです。今は博物館になっている初代原子力砕氷船レーニン号、祖国防衛大戦争(第二次世界大戦)英雄の碑やロシア教会などの市内観光後、いよいよ世界最強の砕氷船が待つムルマンスク港へ。空港から荷物トラックで運ばれたスーツケース類は既に各船室に届けられていました。今回は中国よりの50名を含めた18カ国127名で北極点に向かいます。歓迎オリエンテーションではエクスペディションリーダーとそのチームの紹介があり、夕食の後満潮に乗っていよいよ船出です。歴代の原子力砕氷船や海軍基地を右に見ながら、約2時間でコラフィヨルドからバレンツ海に出ました。
6月25日(土)
バレンツ海北上
暴風圏の無いバレンツ海を19ノットですいすいと北上しています。船内では極海域での避難訓練やヘリコプター搭乗のための安全オリエンテーションからパルカやブーツのサイズあわせまで、北極での活動のための準備が次々と行われます。全ての北極講座や重要行事は私が同時通訳をしており、日本語日程表には★印が付いております。船長主催の歓迎カクテルでは大柄で頼りになりそうなオフィサー達が紹介された後、歓迎夕食会です。私達の食事はヨーロッパ系のホテルマネージメント会社が派遣する専門家が用意するもので、メインコースは毎日肉、魚、ベジタリアンの中から選べるほか、サラダ、スープ、温前菜、そして果物などをビュッフェテーブルから自由に取れるようになっています。また、読売旅行で行う南・北極クルーズ船はいずれも毎朝のおいしい白粥と漬物、ふりかけなどの他若干の日本食をご用意しています。レストランは基本的には自由席、操舵室も出入り自由です。
6月26日(日)
北極海を北上⇒フローラ岬(フランツ・ヨーゼフランド)上陸 気温3℃
エクスペディションリーダーと船長が今年の海氷状況を分析した結果、フランツ・ヨーゼフランド西側半分は氷が少ないため、同群島中央部分のブリティッシュ海峡(東経52~53度付近)沿いに北上することになりました。それでも朝食の頃には流氷群がちらほら見えてきました。遠くには島群が見え隠れして海鳥も船の周りに飛び回っています。そして午前中の北極講座は二度も「ホッキョクグマ出現!!」の船内放送で中断されました。アザラシを食べ終わったばかりで口の周りを赤く染めた雄グマとつぎに母熊と小熊の組み合わせなど計5頭が立て続けに出現しました。親子連れの二頭は本船のすぐ横でバンザイをしてくれたり、寝そべったり、泳いだりする姿を十分見せてくれました。
その上ザトウクジラが一瞬現れた後は氷に乗ったセイウチ数頭も現れて、午前中は前方甲板のあちこちを忙しく走り回って過ごしました。午後には北極の夏には珍しい快晴状態を利用して、フランツ・ヨーゼフランド諸島最南端に位置するノースブルック島にあるフローラ岬にヘリコプターで上陸できました。フローラ岬は北極点を目指した歴代多くの探検隊がベースキャンプに使用した場所で、探険小屋跡や遭難した隊員の慰霊碑などとその間を飛び回る、北極陸鳥唯一の鳴き鳥であるユキホウジロの雄がきれいな声で雌を呼び込んでいました。足元のツンドラにはムラサキユキノシタやキンポウゲが既に咲き始めていて、背後の断崖には無数のミツユビカモメやハシブトウミガラスが忙しく子育てをしていました。夕食後も海鳥やアザラシそしてホッキョクグマの出現が続き、忙しい一夜でした。
各船室とバーやラウンジにあるテレビ画面で本船の現在地、航路図などがいつでも見られます。
6月27日(月)
北極点に向けて北上(気温-1℃)
昨晩中にフランツ・ヨーゼフ諸島の間を抜けた後は北極点まで陸地はありません。360度氷海に囲まれた世界です。今朝は厚さ1mを超える大きな氷板を割りながら75000馬力の本船はぐいぐいと北上しています。午前中の北極講座で昨日から続々出現しているホッキョクグマの話を聞いた後にタイミングよく出現した若い雄ホッキョクグマは船の周りをつぶさに探険してくれました。世界最強の砕氷船には氷海を行くための様々な工夫がされています。船首に付いた特殊鋼製のアイスナイフと船の重さで割った海氷が船尾のプロペラを傷めないよう、水面下の船体側面から圧搾空気を噴出して早く船体から離す方法や、氷に接する部分の船体にはステンレス鋼板が貼ってあって、超低温下でも氷が船体にまとわり付かないようにする方策などです。割れた氷の側面は砂糖菓子の豆板のようなきれいな青い色をしています。船内では最北で見られるワイルドライフの種類と見られる位置(北緯)当てクイズが行われています。 北極点で見られたフイリアザラシの例も過去にあります。でもその前に海の神様ネプチューンから北極点への鍵をもらわなければなりません。夕刻、家来を引き連れたネプチューンが前甲板にお出ましとなり、船長とエクスペディション・リーダーが贈り物とお願いをした後、北極点への大きな鍵をもらいました。その後は見渡す限りの氷海の中で北極バーベキューです。温かいワインと色々なソーセージ類、そして温かいスープやプレッツェルなども楽しんだ後は北極ダンスパーティーまで居残った方もいらっしゃいました。
6月28日(火)
北極点に向けて北上(気温0℃)
午前中は極地でよい写真を撮るためのヒントや北極海の氷の色々に関する北極講座がありました。その間も氷に乗った大きなセイウチと遭遇し、船長は超微速前進で近づきました。赤い眼をした大きなセイウチが動くたびに乗っている氷が揺れて、裸眼でも小さなコブがあるセイウチの厚い皮膚もつぶさに見えるほど近くで見ることが出来ました。
昼食後のエンジンルームツアーは私たちの番です。機関長の解説と案内で厚さ2mの定着氷も速度3ノットで割りながら進む力を持つ50イヤーズ・オブ・ヴィクトリー号の心臓部をじっくり1時間かけて見学しました。重さ7トンの羽が4枚付いているプロペラが3基付く本船の大きさには皆様驚いておられました。午後の北極講座では私たちが何気なく見ている北極海とシベリア沿岸の地図も多くの人の血と汗の結晶であることを知りました。
6月29日(水)
北極点に接近中(気温0℃)
午前7時半現在北緯87度30分で極点まであと150海里(約280km)ほどです。昨年に比べてかなり厚く硬い多年氷の中を速度も5ノットで進みます。本船は氷丘脈に遭遇すると船の長さだけ後進してから全力で突進するラミング(またはチャージング)を始めました。氷を割る振動と騒音には既に慣れている私たちですが徐々に硬く厚くなってきているのを実感しています。北極講座では夏の北極で見られる鳥が冬には何処まで渡るのか、といった渡り鳥の話や、「さまよえる大陸」と銘うった地球の歴史に関する地質学の話を、そして昨日遭遇した大きなセイウチをはじめとする北極の鰭脚類の話を聞きました。昼食前には船長室のカクテルに招かれ、シャンパンを傾けながら船長のフリータイムのお話や船長とのツーショットの写真を写すチャンスもありました。
6月30日(木)
北極点に限りなく接近(夜半すぎ北緯89度13分)
昨日から続いている豪快な氷を割って進む振動と騒音を堪能しています。午前中は北極海の氷上散歩を楽しみました。約2mもある多年氷の下は深さ3000m以上の北極海です。夏の長い日照時間で表面が若干融けて所々水溜りが出来ています。その水は元は海水でも2~3年も経つうちに塩分が殆ど抜けてしまい、ミネラル水として船員さんたちもペットボトルなどに入れていました。へさきからたらしたロープを背負って、あたかも2万トン級の砕氷船を引っ張っているような写真を撮るのはとても人気があります。午後の北極講座では北極点に挑戦した歴代の探検家達の話を振り返りました。夕食後から皆様お部屋やラウンジにあるGPSの数字に釘付けになり、徐々に緊張が高まっています。今年の氷の状態はとても厳しく、何度もラミングを繰り返して、最後の数十kmを夜半までかかり、突き進みます。
添乗員日記担当